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甲斐のサイクル

第10回産業論文コンクール努力賞
株式会社 大和農園  川端美咲 さん

 

  松下幸之助氏の言葉に「企業は社会の公器である」というものがある。企業は活動を通して様々な形で社会に貢献し、社会生活を維持して、文化を向上させていくことにより人々から求められ、成り立つとの意だ。そのように企業には、社会が潤うために何らかの貢献をする責任がある。自分が働く会社は社会に対してどのような“プラス”を提供しているのか考えた。まずは、我々の生活に欠かせない「食」を支えているという事。スーパーで何気なく手に取っている野菜も、元々は一粒のタネである。長い時間を費やし、高い技術を以て研究や育苗が行われる。奈良の“天理交配”というブランドを、自信を持ってお客様に提供する。そして、農家の方によって愛情を込めて育てられた野菜が世間に出回る。そうして小さな一粒のタネが、私たちの毎日の暮らしと生命を支えている。もう一つは、人々の心に癒しや豊かさをもたらすという事だ。私の所属する通信販売の部署では、野菜だけでなく花のタネや苗の取り扱いが中心となっており、趣味で園芸を楽しまれているお客様が大半である。大事に育てた花で庭を美しく飾ること、ベランダの片隅できれいに咲く花を見て心癒されること、自分で育てた野菜で美味しい料理を作ること、そうして私たちの暮らしや心を豊かにしてくれる。我が子のように世話をした植物が花を咲かせたとき、実をつけたときの喜びはひとしおで、何物にも代えがたいものである。
 先日、お客様から大変嬉しいお手紙をいただいた。それは、ある介護施設で園芸療法を行う方からだった。弊社のカタログで買ってくださった種が施設できれいな花を咲かせ、入居者の方が癒され楽しんでくださっているという内容だった。入居者の方が、目を輝かせて花の成長の様子を話してくれるそうで、文末には弊社に対する感謝と期待の言葉が述べられていた。小さな小さなタネが人間の心にも美しい花を咲かせ、笑顔を引き出す。文面からは、そのときの様子が鮮明に浮かび、私の頭の中に広がった。そこには、書いてくださった方のあたたかい気持ちが溢れており、私自身もこれ以上ない喜びを感じた。 “やり甲斐”というものを強く感じた瞬間だった。こうしたお客様の声がモチベーションとなり、今後も自分を成長させてくれるのだろう。私たちは仕事をすることによって収入を得る。収入は労働の対価であるが、きっと大切なのはそれだけではないだろう。この会社に入り、“甲斐”という言葉をより強く意識するようになった。「きれいな花を育てることが今の生き甲斐です。」そう言って自慢の花の絵を描いて送ってくださるお客様。そのお客様の“生き甲斐”が、私たちの“やり甲斐”や“働き甲斐”に繋がる。英語でいう「労働」(レイバー)の語源は「難儀」であり、フランス語の「働く」(トラバーユ)はラテン語の(トリバーリーアーレ)「拷問」が語源であるそうだ。つまり、「労働」=「苦痛」のイメージである欧米と違い、日本では「労働」を美徳とする文化がある。これはそうした甲斐のサイクルがあってこそではないだろうか。
 「あなたから買うと、このパンがより美味しく感じるわ。」大学時代、アルバイトをしていたパン屋でお客様が、私の笑顔を褒めて言ってくださった一言だ。早朝からたくさんのお客様がやってくる。一日を気持ち良く過ごせるように、笑顔や挨拶を心掛けて接客を行っていた。そうすることで、顔を覚えてくださったお客様と毎朝の会話が弾む事も多々あり、ただ商品を買っていただく・売るだけでなく、あたたかいコミュニケーションが生まれた。そうした中でかけていただいたその言葉は、社会人になった今でも私の心の支えとなっており、たとえ商品や環境が変わってもそう感じていただけるような接客を心がけていきたいと思っている。現在も毎日たくさんの方とお話をして仕事をしているが、そのほとんどが「電話で」だ。老若男女、様々なお客様からのお問い合わせがある。しかし顔は見えない。相手の表情が見えないという事は、コミュニケーションを取る上で大きな壁となる。これまでの経験とは全く異なる“接客”である。しかしそれはお客様にとっても同じだ。問い合わせをする相手の顔が、表情が、見えないのである。そうした中で、どうすればお互いを理解し、気持ちよく会話をする事が出来るのか、どうすればお客様にもっと喜んでいただけるのかという事を常に意識するようにしている。
 入社してすぐに目にしたのは、働く先輩方の専門家としての技術や拘り、そして何より商品に対して持っている自信だった。仕事は真剣勝負である。そこに妥協はない。そこで改めて“企業の一員”となった緊張感が込み上げてきたのを覚えている。自分の働く会社が社会においてどのような役割を果たしているか、どう貢献しているのを常に意識し理解する。そして、その貢献の質を高めて社会に潤いを与えていく。そのためには、社員一人ひとりが“やり甲斐”を感じながら働くということが重要だ。企業としても個人としても社会から愛され、そして求められるよう、いつまでも素晴らしい甲斐のサイクルを感じられるような仕事をしていきたい。

 

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