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専門知識よりも大事なこと

第12回産業論文コンクール 優良賞
株式会社 呉竹  平田明日香 氏

 

 私の社会人生活は、予想外の出来事から始まった。それは、情報管理部という部署に配属が決まったことだった。
 呉竹は入社後に2か月間研修があり、6月から各部署に配属される。その研修も終了間近の5月中旬に、配属先を決めるための役員との面談があった。私は総務部を志望していた。入社前、総務部とは、会社を影から支える部署だというイメージを持っていた。しかしそれだけではなく、会社のルールを整え、それをまずは総務から発信していくことで、会社を内側から動かす面もあることを知り、その役割に魅力を感じたからである。私は総務部に配属されるものだと思っていたから、配属に関してはなんの不安もなかった。なぜなら入社前から何度か、ほとんどの人が希望通りの部署に配属されると聞いていたからだ。
 通常は2回の面談で配属先が決定する。ところが私は、最終面談の前に臨時で面談があった。それを知ったとき、私は一抹の不安を抱いた。もしかして違う部署に配属されるのではないかと思ったのだ。そしてその不安は的中した。しかし部署は意外なところだった。社長に、情報管理部を勧められたのだ。情報管理部とは、会社のシステムを作ったり動かしたりする部署であるが、私は根っからの文系で、大学では日本文学について学んでいた。そのため、今まで機械やプログラムといったことには全く縁が無かった。しかし社長から、情報管理部にはむしろ文系的な視点から考えることが必要な部署だと言われた。なぜなら、システムを整えるには、専門的な知識よりも、まず会社がどういう仕組みで成り立っているのかを広い視野を持って知り、みんながどういう仕組みを必要としているのか、人の立場に立って考えることが大事だからだ。そして、それは会社を内側から動かすという総務部と共通した役割があることを知り、魅力を感じた。さらに、極め付きに社長がこうおっしゃった。
「絶対に後悔はさせません。」
 私はこのときにはもう、情報管理部に行くと決めていたし、最初に抱いていた不安もほとんどなかった。8人の新入社員のうち、私だけが希望の部署ではなかったが、情報管理部に期待を抱き、前向きな気持ちで6月を迎えることができた。
 しかし、最初は誰もがそうだと思うが、分からないことの連続だった。配属後間もないある日、部内のミーティングの議事録係を任された。私ともう1人情報管理部に配属された子と協力して議事録を取り、部内に配信するという一見単純な仕事である。ところが、いざ始まってみると話の内容がわからなければ出てくる単語の意味も分からない。メモを取るだけでも必死なのに、理解が追いつかないので、後から途切れ途切れの自分のメモを見返しても意味が分からず、ろくに議事録をまとめることができなかった。ふと、学生の頃の、勉強不足のまま英語のリスニングテストを受けてしまった時のような感覚を思い出した。まさに外国語を聞いているようだったのだ。
 そこで私は、議事録をまとめる前にわからない単語を調べることにした。それが専門用語なのか、会社名なのか、どういう文字表記なのかさえわからなかったが、調べることによって話の内容が、回を重ねるごとに少しは理解できるようになった。また、ミーティングの前には前回の議事録を見返し、話の流れをつかめるようにした。まだまだ仕事の中でわからないことは多いが、これを繰り返すことによって、調べたり、人に聞いたりする癖を身に付けることができた。
 私は、仕事をする上で疑問を解消することは、とても大事だと思っている。わからないまま進めてしまうと失敗を招くし、せっかく仕上げても上司や先輩の意に沿わない結果になるかもしれないからだ。特に情報管理部は数字を扱う部署でもあるので、データには正確性が求められる。間違っていたら上司や先輩に迷惑をかけるだけでなく、部署としての信頼も失ってしまうことになる。また、この先後輩が入ってきたとき、その仕事の意味まで理解していないと教えることはできない。
 そのため、都度疑問を解消することに加えて、人に教えることを視野に入れて仕事を行うようにしている。最近仕事の1つとして、仕事の手順をまとめたマニュアルを作成することが多い。マニュアルは仕事を理解していないと作れないし、わかりやすいものでなければ活用されない。だから私は、何もわからなかった頃の自分を思い返し、初心者でも読めばわかるように心がけて作っている。これは初心者の私だからこそできることだと思っている。また、わかりやすいものにするには仕事の細部まで理解する必要があるので、結果として自分自身も理解を深めることができる。
 また私は、仕事に使えるエクセルやワードの機能をまとめ、定期的に全社にメール配信を行っている。この資料も、誰が読んでもわかりやすいものにすることと、初心者からある程度知識がある人までを視野に入れて内容が偏らないように心がけている。
こうした心がけは、情報管理部にとって必要な「広い視野で物事を考えること」にもつながると思う。例えば何か会社の新しいシステムを作ったとしても、それが機能しなければ意味がない。機能させるためには、会社の仕組みや条件に合うものであり、誰にとってもわかりやすく、かつ使いやすいものでなければならない。そして、それがどのようなものなのかを知るためには、やはりあらゆる視点から物事を考えることが大事なのだ。
 つまり広い視野を持って考えることとは、気遣いでもある。例えば上司からエクセルに商品データを入力する仕事を任されたとき、参照するデータがないものやデータ自体に誤りがある個所は口頭で説明するだけではなく、後でチェックしやすいようにセルに色を付けて返している。些細なことではあるが、そういったことが仕事を円滑にし、良い人間関係を築くことができると思っている。
 私はまだ知識が浅く、経験もないので専門的な仕事はほとんど任されていない。そのため、すでに大きな仕事やたくさんの仕事を任されている他部署の同期の話を聞くと、大変そうだとは思うが、劣等感を感じることもある。このペースでいいのかと焦りを覚えることもある。しかし私は、情報管理部への配属を後悔したことはない。今はいろんなことに目を向けられるチャンスだと考えている。これは専門的な知識が無くてもできることだし、成長にもつながる。だから、1つの仕事に対してそれをただこなすのではなく、この仕事の意味は何か、どうつながっているのかを本質まで理解し、多角的かつ客観的に物事を考える力を身に付けていきたい。そして早く、会社を内側から動かしていくような仕事ができるようになりたいと思っている。

 

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