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競争相手は「何」か?

第13回産業論文コンクール 努力賞
株式会社ヒラノテクシード  今井勇企 氏

 

 私は機械設計として弊社に入社して半年、研修とOJTの日々である。まだまだ半人前にもならないと言われ見るもの聞くものを吸収しながら、見守られつつアウトプットする日々であるが、その中で、競合企業との競争とか、競争相手との差別化という言葉を漏れ聞く機会も増えてきた。
 競争相手と言えば、やはりまずは競合企業、そしてそれは同業他社というものが一般的だろう。弊社にも同じ機械製造の同業他社が何社もあり、その中でも有力な競合企業というものが数社は挙げられる。そして特に有力な同業他社は、財務とか技術といった面で強く意識し、毎月の全体朝礼でも常に表形式で比較の発表がある。また、これは機械製造に限らないだろうが、近年は人件費の安さと為替レートを武器に、それなりの水準の製品・サービスを安価に供給する諸外国企業との競合も、よく見聞きすることである。そうした中で「これから会社を永く存続させるために」という題目も毎日のように聞いている。
 しかしある日、仕事を覚えるとか成長するということを考えていた時、競争相手は「他社」だけなのだろうかという考えが頭をよぎった。弊社の機械は受注生産であり、お客様の仕様に合わせて一台一台、その都度設計するといってもよく、同一品の大量生産ではないため自動化にそぐわない部分が多い。そのため人手がかかる分野だとされるが、それでも研修中に感じたことは、機械化・自動化が可能な部分は、もはやコンピュータ制御の機械の独擅場であるということであった。こうした面から見れば、人と競合しているのは「機械」であるということになる。有体にいえば、それを司る「コンピュータ」が競合相手だ。昔は機械が単純作業を置き換えたと言われているが、最近では人工知能が進み、複雑な作業や思考を要求する分野にもいずれ大々的に進出するという話もある。そうして考えたとき、本格的に知能で機械と競合する時代が来るのではないだろうか。そして、そうした競合を考える中に、同業他社や他国との企業とも競合する中で、生き残れる術があるのではないだろうか。
 そのことを考えていた日、出張作業があった。そこで私が担当した作業は、エア機器の検収であった。弊社の機械は組み立てられた後、必ず検収といい、必要な水準を満たしているか、機器の組付け違いはないか、動作に問題はないかなどのチェックがある。これを図面と比較しながら確認していくのである。弊社の機械は圧縮空気で動く部分があり、圧縮空気の供給源から配管で色々な機器に接続し、動作させる。その圧縮空気で動く部分と配管を合わせてエア機器と呼んでいる。私がエア機器検収に従事するのは2回目であった。
 最初に行うのは配管の目視確認である。これは図面を見ながら配管を順々に追っていき、必要な機器が必要な個所に接続されているかを確認していくものである。ところが配管は筒の中に納まっていて見えなかったり、その中で分岐していたり、十本近くまとめられて一本一本を確認することが出来なかったりする。そうした状況であることは教わるものではなく、その場で自分が判断するしかない。見えない位置については、配管の位置関係や、前後の配管の状態、指で触って確認するなどによって、図面との正誤を推定することになった。
 ここで人工知能と人間の違いを考えてみる。人間であれば、見えない部分の配管の状態はどう判断するだろうか。私は筒の入り口で二本、出口で四本の配管があることから、内部でそれぞれが二本に分岐していると推定した。そして、それは図面でそのように要求されていることと、配管を一本から三本に分岐する部分は図面上のすべての配管どこにも指示がないこと、その配管のスペースで一本から三本に分岐するには、一か所で三本に分岐するアダプタが必要になるが、この一か所のためにわざわざアダプタを用意するのは不自然だという経験的な部分を根拠とした。こうした考えは、現在の一般的なコンピュータでは難しいとされている。コンピュータは事前に情報を与えないと判断ができないため、図面で一本から二本に分岐するものが二組あるという指示であること、スペース上アダプタが必要なこと、アダプタを用意するのは不自然なこと…などの情報が必要だからである。経験則の部分を事前に入力する必要があるということだ。逆に言えば経験則の部分を入力してしまえば、こうした部分は代替できてしまうことになる。そして人工知能では、経験から学習するという部分の高度化が進められている。こうした経験からパターン化できる部分に関しては、人工知能が人間を代替していくだろうと考えている。
 次に行うのは、動作確認である。図面で機器と配管の接続を概ね確認し、危険はないと判断した段階で、動作テストを行う。これには、目視では推測するしかなかった配管の接続を、動作の面からも確認する意味もある。ここで問題があり、配管の接続は推定通りであったのだが、一部の機器が動かなかった。問題の機器は電磁弁という、いわば切替スイッチの部分である。その日は何度試しても動かず、帰社することになった。
 その帰り道、先輩社員同士の会話の中で「電磁弁はある程度の圧力が掛かっていないと動かないらしい」という会話があった。これは私にとってまったく新しい情報であった。果たして図面を見ると、電磁弁の前にある機器が付いていた。そのことから私は、電磁弁の前についていた機器は圧力を下げる機器だということを想像し、尋ねてみるとその通りであった。この「得られた情報が直接示していなくても、そこから想像して別の情報を得る」という考え方は、この日新たに身に着けたことであった。こうした部分は、いわゆる経験則を活用する人工知能で代替されにくいと考える。すなわち新しい情報が入ってきたときに、そこから直接に経験のない部分に関して想像力を働かせ、新しい思考パターンを見つけ出すという部分である。実際にはこの程度であれば、十分に人工知能で代替できるとも思えるが、経験則から導かれるパターンでなく新しい思考パターンを生み出すということが、人間特有の部分ではないだろうか。
 いま、目前の競争相手は同業他社や海外企業であろう。いずれも価格や技術面、サービスといった面で切磋琢磨する相手である。そうした中で一企業が存続し発展していくためには、大小関わらず、ある種のイノベーションを世に送り出し続けなければならない。技術力を高めると言っても従来の方法を高めるのみでは、その産業の発展には限界があるし、価格競争では為替と人件費の安い国の企業が有利である。そして一歩引いて考えたとき、競合は同業他社だけでなく業種間や産業分野同士でも起こりうるし、学術分野と産業分野の競争もあり得る。将来的には人類と人工知能という競合も起こりうるだろう。つまり、有形無形のもので私たちは競合し、まさに「競争相手は『誰』か」ではなく、「競争相手は『何』か」ということが問われるのではないだろうか。私は社会人として、仕事を覚え経験を積み、更にその先に常に新しい思考パターンを見つけ出すということを心に留め、新しく創造するという面をもって、弊社ひいては社会に貢献していきたいと思う。

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