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奈良の発展のためにいま考えるべきこと

14回産業論文コンクール 優良賞
株式会社ヒラノテクシード  鎌田小夢 氏

 

奈良の発展のためにいま考えるべきこと

 

 転職して引っ越すことになりましたと告げると、目を白黒とさせた先輩が一息ついてから、大阪?それとも東京?会える距離なの?とためらいがちに尋ねてきた。奈良です、と答えると、ははぁ、まさかの、そんなところに会社があるの?…とまるで私が僻地へ旅立つかのような言葉を漏らした。
  私はもともと奈良県の出身ではない。小学校の修学旅行と、趣味の登山で訪れた程度で、つてや知り合いがあるわけでもない。そんな私が20代の後半になって縁あって奈良県に引越し勤めることになった。早半年が経つが、少子高齢化とグローバル化が進む現代において、この奈良の仕事の仕方、企業のあり方にはギャップを感じるところは否めない。歴史がありなおかつ山々に囲まれた土地柄からか、「昔からそうしている」を今もつなぎ続けており穏やかではある。しかし平成も終わりとなる今日に、現状がいつまでも維持できるのか、ひいては今後の発展はあるのかを問いたい。私の考えるネックは以下の3つだ。 

1閉鎖的な気質

 奈良にやってきてまず初めに面食らったのは、「地元でもないのにどうして奈良なんかに」という閉鎖的な言葉。私が自己紹介をした後には必ずと言っていいほどみな口をついて出てくる。私からすれば、趣味の登山で訪れた奈良の山々は素敵で魅力的なものであったし、奈良北部は大都市大阪からの利便性も良く、なおかつ静かで快適。大災害も少なく、生活費の大半を占める家賃が非常に安い。実際に住んでみて感じたメリットだ。しかし住民が閉鎖的であるがゆえに他からの転入者も少なく、冒頭の私の先輩の言葉のように、ゆかりがなければ辺鄙な僻地のイメージを抱いてしまう。人口の取り合いをしている昨今には、閉鎖的な人柄も誤ったイメージの先行も大きな打撃となっているはずだ。 

2女性の雇用

 私は現在、機械設計職唯一の女性社員として働いている。どこも総じて機械設計職の女性社員が少ない傾向にあるが、とりわけ社内では物珍しく思われているように感じる。
 その要因は、周りの女性社員の反応にある。弊社は女性社員が少ないわけではないのだが、そのほとんどが事務作業に従事しており、専門業務・現場業務に就くひとはほとんどいないのである。ゆえに、「図面が読めたり書けたりしたら、どこでも仕事できるし良いね。」だとか、「機械のこともようわからんし、設計なんか難しそうでようやらんわ。」などと言葉をかけられることがしばしばあった。私は、この言葉に非常に違和を感じていた。なぜなら、図面にせよ機械要素にせよ学びさえすれば男女関係なく業務ができるものであるし、何を隠そう私自身が現在も日々勉強中であるからだ。現在の社内でも、

・安全かつ確実な作業の確立

・作業の平均化

・均等な教育機会

が十分ではないため、もともと専門的な知識・技術を要していないと従事できない業務となってしまっている点があると考える。
 他にも調べてみると、奈良県は専業主婦全国一位、それも一度は就職するも結婚・出産を機にキャリアを断念しての結果だと統計が出ている。これは仕事の体裁に難があると言えよう。主に、

・業務の細分化・明確化・平均化

・各作業の作業時間目安の設定

といった点が欠落していることが容易に推測される。ゆえに産前産後休・その後の時短勤務を要したときに働く場がないのである。これは今後一層少子高齢化が進むなか、とりわけ過疎化の進行が深刻な奈良県で労働人口の確保をするにはクリアしなければいけない大きな課題である。 

3職人技を減らす

奈良県民の仕事の仕方は職人気質だと感じる。

 業務上「この人にしか頼めない」という仕事、いわゆる「職人技」について、その技術を身に付けるには本人の努力と鍛錬の賜物であり、讃えられるものである。しかし、その人に依存している状態では会社組織として不健全である。なぜなら、会社組織として大事なことは「高クオリティな製品を常に供給し続ける」ことだからである。
 炊飯を例に挙げてみると、言うなれば職人技は“かまどで炊き上げたごはん”だ。目を離さず、焦がさないように毎日夕飯の時間ぴったりに炊き上げることは至難の業である。
 しかし、そこに炊飯器があったとすれば、ボタン一つで誰でもいつでも同じおいしさでご飯が炊ける。技術伝承も非常に容易だ。そうなればかまどご飯における手間と時間におけるコストの回収は難しい。炊飯器に圧倒的に勝る価値の明示と、その価値に対する需要が必要になるからだ。
 要するに、職人技を分解し、作業における“炊飯器”を確立させることが今後の業務存続のためのキーとなる。そうなれば前述の女性雇用の推進にもつながり、ひいては作業効率の向上によって生まれる余剰時間を、さらなる性能向上に充てることができる。「職人技」のように個々の仕事能力に依存しない、「誰もが」できる業務を増やしていくことが課題である。
 私は奈良に引っ越して、想像していた以上に暮らしやすく充実した時間を過ごせていると感じる。当然、僻地などとは到底思っていない。しかしこのままでは奈良は衰退していく一方であることは目に見えており、私が奈良で暮らしてみて、勤めてみて感じたギャップは改善が必要な点と言えよう。
 この穏やかな土地が今後発展していくためには、時代の流れに応じた取り組みを行っていくことと、閉鎖的にならず外に目を向けることだ。誇れるところがたくさんあるのに、魅力として発信できない、技術を後世に残していけないなどどなれば本当にもったいない――そんなことを考えながら、私は前職の先輩に暑中見舞を書いた。
「意外と近いので今度また奈良へ遊びにいらしてください。おいしいものもきれいな場所もたくさんありますよ。」

 

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