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発展のために再興を考える

第15回産業論文コンクール 優良賞
奈良ダイハツ株式会社  矢信里紗 氏

 

 『 発展のために再興を考える 』

 

 街中を歩いている際、とてつもなく長い行列を発見した。それは、タピオカ専門店に並ぶ人の列だった。行列は通りを2つも3つも越えた先まで続いていた。現在のタピオカブームは第3次ブームであるという。最近の傾向をみると、少し前に流行したディスコ、バブル時代の曲を使用したダンスなど80年代に流行したものが再度流行している兆しがある。その流れに乗るのであれば、世間一般で若者の車離れが問題視されている今、自動車も若者の間で流行してもおかしくないはずだ。
 奈良ダイハツに入社し2年目となった。休日は友人と食事に行くなどして過ごしている。食事中の会話は1年目の頃に比べ、少し変化してきている。以前は、休みが欲しいや、朝起きるのが辛いといった他愛もない自分主体の話ばかりであった。現在は、少し客観的な視点で考え、意見を言い合うようになった。
 社内のみでなく、世の中の傾向を感じ取り、各々の仕事について話すことが増えた。自動車会社に勤める私のまわりでも若者の車離れの話題になる。その“若者”とは、働いてお金を稼ぐようになり、車の必要性が高まる、私達20代を指すと思われる。しかし、金銭面を考慮すると手を出せないという声をよく聞く。また、女性にとって機能は優れていても金銭を超えるほど、自分の興味を刺激するデザインがないという友人の意見もあった。近頃80年代の流行が再発しているように、時代の流れに乗り、車内外のデザインは80年代風で、先進技術を利用した安全装備の充実した車であれば流行る可能性もあるかもしれない。再興が成功し若者の注目を集めたのはタピオカだけでない。風合いが良いと話題になったインスタントカメラや、デジタルの時代だからこそ喜ばれる手書きの手紙や、インテリアにも使用できるレコードなどがある。このように昔の事柄が現代に当てはまるのは、娯楽だけではなく仕事にも当てはまるようだ。
 時代の変化とともに、仕事の進め方、やり方も変化している。私の上司から、昔は横の繋がりがしっかりした業務体制の企業が多かったという話題が出た。
 横の繋がりが強い企業は、全体像や業務の流れが掴みやすい。それは、社会人経験が浅い私にも理解できる。昔は、というと今はどうなのだろう。縦割り業務、横割り組織という言葉を耳にする。時代が進化するとともに、企業の業種は多様化し、各業務において更に深く専門性に富んだ業務やコンプライアンスが求められるようになったため縦割り業務になったのだろう。縦割りだと、その仕事のスペシャリストであるため、ミスも少なく、やるべきことが明確でスピードアップにも繫がる。この部分だけをみれば企業にとってはメリットである。
 上司とこんな話題を交わした頃、雑誌で金型職人についての記事を読んだ。材料の仕入れから完成・発送までを一連の流れにし、金型を作成する職人。金型を作るのに、どのように作業を進めていくのか、目に見えて分かるため、仕組みを理解することは難しくはなかった。ただ、熟練した技術を職にするのが職人であり、一人前になるには何年もの年数と経験が必要である。この職人でさえも時代の需要に合わせ経費や時間を減らすために海外生産に移っていった。一連の流れの業務ではなく、分業化である。必然的に職人も経験が乏しい人へと代替わりしていき、例えば分業体制での発注担当者は、自分が任された発注という業務以外の工程や、生産された金型の適正価値が判断できなくなってしまっているという。このように過去の時間がかかるという、一連の体制のデメリットを改善した一方で、業務を本質的に問うことが難しく、連携が取りにくいという新たなデメリットが発生した。
 先ほどの上司は長年働いてきて、過去と今の業務体制の変化を、身を以て痛感していると話していた。この話を聞いて、最近、私が業務上で経験し、疑問に感じていたことと一致した。
 2年目になってから数カ月後、先輩の異動に伴い、新たな分野の仕事を任せて頂くようになった。中には、他部署との関連業務もあり、今まで同じ会社内でも交流が少なかった方たちと連絡を取り進めることが増えた。今まで担当していた業務であれば、見えていなかった問題点が出てきた。新たに任された業務に所有権解除という手続きがある。車検証上の当社の所有権を外すという重要な業務である。先輩からは、過去は自分たちで全て対応していたが、来店数も増え時間も掛かることから、営業を窓口とすることに変更したと聞いていた。ある日、お客様が所有権解除の手続きをしたいとご来店された。今までは私が作成した書類を窓口となっている営業スタッフに渡すという流れであった。しかし、その日は突然のご来店で、担当の営業スタッフは外出中、更には手続きに必要な金銭の受け取りも必要であった。私は普段、本部で勤務しているため、お客様と接することが少ない上に、その時はお客様との必要なやり取りも受け取ったお金の処理方法も分からなかった。一人のお客様に外出している営業スタッフ、経理の先輩、書類発行担当の私が関わる案件となった。事前準備のできていない突然のご来店であったとは言え、通常の倍の時間がかかってしまった。3人がそれぞれ自分のすべきことをしっかりと迅速に行ったにもかかわらず、お客様をお待たせすることとなった。何故こんなに時間が掛かったのかというのが、私が抱いていた疑問であった。今ならすぐに、原因を明らかにすることができる。この部門の違う3人には、業務の流れに認識の統一がなかったからである。自分の業務外のことは把握していないといった状況が続けば、また同じことが起こるだろう。この出来事は、横の繋がりが薄かったため起こったことだった。疑問に感じていることに対し、上司の話題、雑誌の記事。これは「意味のある偶然の一致」だったのかもしれない。自分が気になっていること、疑問に感じているからこそ、出会えた話題であったと考えると、興味や疑問を持つことを大切にしていきたいと思った。このように考えるようになった自分の変化も一つの進化だと考える。
 現代は進化している。過去の経験や失敗から進化してきて今に至る。しかし、進化を遂げた今だからこそ過去の方法や体制がジグゾーパスルのように当てはまるという可能性もある。私の経験の場合、次に同じようなことがあってもお客様を長時間待たせないよう横の繋がりを強化した対策が必要である。全員が全ての業務を同じようにとはいかないが、自分の携わる業務の流れを共有する、また、周りの方はどのような業務を行われているのか知ろうとする動きが必要でなはいかと考える。
 日々の業務から、感じていたことは私のみでなく長年働いてきた方が感じていることと同じであった。だとすれば、新しいものを取り入れるだけでなく、戻してみる判断も発展のために必要ではないかと考える。 

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