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AI化社会の中で人として何ができるか

15回産業論文コンクール 優良賞
南都ビジネスサービス株式株式会社  若杉和政 氏

 

 『 AI化社会の中で人として何ができるか 』

 

  昨今、AIに関する研究開発は目覚ましい進歩を遂げており、話しかけるだけで天気予報や電気の照明まで調節してくれるAIスピーカーという機器や、自動車の完全自動運転化までもが現実のものとなりつつある。我々の生活により密接なものとなってきたAI化の波はビジネスに関しても同様で、現在人の手によって行われている多くの仕事が近い将来AI化されると言われており、人間の「道具」に過ぎなかったものが大きく進化し、人に取って代わる新たな労働力となりつつある。これは大いに歓迎すべき事であり、それによって人の暮らしは今よりも一層豊かなものになるだろう。
 しかしそれは、今まで人同士が競争してきたビジネスの土俵にAIが踏み込んでくることになり、機械にできる仕事と人にしかできない仕事というものが今後より鮮明に浮き彫りになるということでもある。テレビやインターネット上では今後10年以内に無くなるであろう職業なども話題となっており、これからの仕事のあり方を考えたとき、「AI化との戦い」が新たに含まれる事になるのは明らかである。その戦いを勝ち抜いていくということは即ち「人にしかできない事」を見つける事に他ならない。では人がAIに勝る点とは何なのか、私は以下の2点を考える。
 第一に「創造」が考えられる。そもそもAIは何もないところからアイデアを生み出すということができない。業務を効率化してほしいという要求があった場合、現在与えられている業務の中から不要と思われる作業を判断して簡素化する等の案は出せても、全く新しい作業を取り入れるなどの革新的なアイデアは人間にしか生み出せない。既存のものとは異なる視点から新たな価値を生み出す「創造」は、まさに人であるからこその強みである。
 第二に「想定外の事象への対処」がある。私は銀行のサポート業務を行う会社で、現金管理部という部署に所属している。ここでは銀行から集めた現金を精査しており、私はその中で硬貨の精査を担当している。機械で硬貨の枚数を数え、伝票に記載されている金額と一致するかを確認するのだが、これが一致しないことがある。機械の中に硬貨が挟まって勘定されずに残っていたり、硬貨が変形、傷が付いていてセンサーで認識されないなど理由は様々であるが、こういったトラブルに対して迅速な対応を行うことが求められる。AIは定められた範囲内でしかトラブルの原因を究明できないのに対し、人間ならば思いつく限りの様々な対処法を提案できる。近年は学習型AIというものも登場し、人間の脳に近い仕組みで物事を学習できるというが、その学習の考え方のロジックも人間が設定しなければならない。すなわち、AIは事前に設定された想定の範囲内の事象にしか対処できないのである。想定外のトラブルが発生した際に対応する能力こそが、人の強みと言えよう。
 ではそれらの2点を理解した上でこれから私たちはどうしていくか。1つめの「創造」に関しては先に記したように、AIが提案するようなものではなく、革新的な業務の改善案を考えることが挙げられる。しかしこれは日々の業務を機械的にこなすだけでは不可能である。常に仕事に対して考えを巡らせ、どうすればより短時間かつ効率的に業務を完了できるか、コスト削減ができないかなど、自らの職務に良い意味で疑問を持つことが大切である。弊社でも事務改善案の積極的な提出を行っており、私自身も既に入社してから改善案を2度提出している。何の疑問も持たずにただ指示された通りの作業をするだけでは、いずれ淘汰されていくことになるだろう。
 次に2つめの「想定外の事象に対する対応」であるが、これについては業務の内容をしっかりと理解する他ない。トラブルが発生した際に何が原因なのかを早急に判断、対処するためには対応する者自身が自らの担当している業務の中のどこでトラブルが発生する恐れがあるかを把握しておかなければならない。伝票と現金の金額が合致しないという一つの事象に対しても複数の原因が考えられる。機械の中に硬貨が挟まっていないか、変形、損傷硬貨がないかだけでなく、顧客の記載した伝票の金額は本当に正しいのかなど、根本の原因が異なれば解決方法も全く異なったものになる。無論いつも正しい判断ができるとは限らず、時間がかかってしまうこともある。しかし様々な原因の中から正しい答えを導き出し、対処することができれば、それはAIにはない人としての強みを発揮することになる。
 これから訪れるであろうAI化社会は我々にとってより良い暮らしをもたらしてくれることだろう。しかしそれは同時に優秀なライバルが職場に流入してくることにもなる。人として何ができるかということをしっかりと考え、日頃からそれを実践することで、将来においても有用な人材となれるよう、我々若い世代は常に努力しなければならない。

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