ホーム > 産業論文コンクール > 過去の入賞論文 > 第16回産業論文コンクール(令和2年度) > 私がなりたい自分~営業職にチャレンジするにあたって~

私がなりたい自分~営業職にチャレンジするにあたって~

第16回産業論文コンクール 努力賞

 南都リース株式会社  柴﨑絵梨 氏

 

『私がなりたい自分~営業職にチャレンジするにあたって~』

 

 「自分にしか出来ない仕事をして、ひとりの人として認められたい」

「仕事を通じて相手の心を動かせる人になりたい」

 これは、私が入社時より理想として持ち続けている仕事へのモチベーションであり、営業職にチャレンジしたいと考える動機です。
 私の勤務する南都リースは、南都銀行を親会社とする銀行系リース会社です。入社して2年半、私は一貫して営業担当者のサポート業務、すなわち事務職に従事してきました。希望した営業職ではありませんでしたが、同じ業務を担当する先輩の「プロ意識の高さ」や「仕事に対する責任感の強さ」、「周囲への繊細な気配り」に大いに触発され、職種を問わず、ひとつの仕事をやり遂げることの尊さを教えられました。一方で、自らの営業目標と自社の収益獲得のために奔走している営業担当者のハードな仕事振りを目の当たりにして、憧れ続けた営業職に臆している自分がいました。これまで、当社には女性の営業職がひとりとしていなかったという事実も、私の心を怯ませました。本来の希望ではない職種に従事する違和感は、次第に薄れていったのです。
 学生時代より私は、ことあるごとに他人と自分を比較してしまい、自分にない優れた能力や魅力を備えた人に出会うと、劣等感に苛まれる日々を過ごしていました。人から認められたいという欲求は人一倍強いのに、自分で自分を肯定的に捉えることができず、自分の存在意義をどこに見出せばいいか分からずにいたのです。冒頭に記した二つの言葉は、私が営業職を志望する動機であると同時に、「そんな自分を何とか変えたい」、「仕事を通じて自己を実現したい」という切実な願いでもあったのです。それにも関わらず、当時の私はそうした気持ちすら忘れかけていました。
 入社後2年が経過した頃、あることがきっかけで、私は自分のキャリアについてもう一度考えるようになりました。それは、当時の当社社長から掛けられた「会社のためではなく、自分のために働きなさい」という言葉と、学生時代の友人たちとの再会でした。
 友人たちは、誰もが知る大手企業で総合職として働いていたり、看護師となりコロナ禍のさなかにエッセンシャルワーカーとして医療の最前線で勤務を継続していたり、その経歴は様々ですが、それぞれ自分の目標実現に向けてがむしゃらに走り続けていました。今の仕事に対して自分なりに意義を見出していたつもりでしたが、それは私が目標としていたものではなかった。自分が何のために働いているかを忘れていたことに気付いたのです。仕事を通じて自己を実現する。自分自身を高めることがお客様や自社の利益に直結する営業職こそが、自己を実現する唯一の方法だと改めて確信したのです。働く目標・目的が明確になった私にとって、自分の求めるキャリアを諦めること以上に恐れるものはもう何もありませんでした。
 覚悟が決まると、次に胸に去来したのは悔恨と焦りでした。自分の希望はいつ叶うのか、その希望は繰り返し訴えてきたつもりでしたが、一時的とはいえ営業職をあきらめかけていた自分。自分が当社初の女性営業職たり得るのかというプレッシャー。弱気になっていた自分を後悔するとともに、焦りは日に日に大きくなっていきました。
 そんな私に転機が訪れたのは今から3か月前、新しい上司との出会いでした。その上司は私の所属部署に来られる前、営業部長の職にあった方で、私が営業職志望であることを知り、私の声にしっかりと耳を傾けてくださいました。そのうえでご自身の営業経験や、これから当社が目指そうとする新しい営業スタイル等について丁寧に説明してくださいました。私は夢中になりました。そこで耳にした営業スタイルこそ、私の理想とする営業そのものだったからです。
 今、当社が目指そうとしているのは、ソリューション営業という「営業の原点への回帰」です。自分本位の営業ではなく、お客様の求めているものを正しく理解し、お客様の課題に対する解決策を提案する。自社の利益以前にお客様にとって有益であることを前提に、お客様に寄り添った提案を行う営業スタイル。お互いがWIN-WINとなる関係を構築することこそが営業の醍醐味であると考えていた私は、自分が求めていた営業とはまさにこれだと感じました。
 時にそれは、直ちに自らの利益を最大化することには繋がらないかもしれません。しかし、地道な努力を積み重ねることで築き上げたお客様との信頼関係が、将来、自らの利益となって還ってくる。自分がお客様に認められ信頼されることが当社に利益をもたらす。これがソリューション営業の本質であり、それまで漠然と考えていた自分の目指す営業の形が、はっきりとした輪郭を持った瞬間でした。
 こうした新しい営業スタイルを実現するための社内体制の改革も進んでいます。ソリューション営業に取り組む営業職を正しく評価するためには、「短期的な利益」のみをもってその評価基準とするには無理があります。お客様との間に培った信頼が、取引の拡大となって利益を生むまでには相当な時間を要することもあり、その間のプロセスを評価する仕組みが必要だからです。こうした改革への取組は未だ緒に就いたばかりであり、定着までには今しばらく時間を要するものと思われますが、自分自身もその改革の中に身を置き、新しい営業を実践していきたい。改めてその思いを強くしています。
 幸い、現上司から営業職へのコース転換を推薦いただき、来春からの営業職転身に向け日々研鑽を重ねているところです。営業見習いとして取引先との商談にも同行させていただけるようになりました。そこで耳にするお客様の生の声は、リースの教科書から得られる外形的な知識にとどまらず、お客様自身の実感から伝えられるソリューション・ツールとしてのリースの活用方法そのものであり、私自身の営業スタイルを体現していくうえでの貴重な経験となっています。
 多くのお客様と直接コミュニケーションをとる営業職は、多様な考えや価値観、経営哲学に触れることができ、学びの機会を広げ、自分の可能性を高めていくことができます。こうした経験を積み重ねていくことで、自信をもって営業に取り組むことができ、自己肯定感の向上にも繋がるのではないかと考えています。
 仕事の意義を教えてくれた先輩からもそっと背中を押してもらい、大いに勇気付けられました。
 今、大ヒットしている銀行を舞台にしたドラマで、主人公は「貸すも親切、貸さぬも親切。仕事は自分のためではなくお客様のためにするものだ。」というセリフを発していました。「お客様のため」が「自分のため」になる。お客様の課題を解決することで自分自身を向上させる。これこそが私の考える理想の営業スタイルであり、「私がなりたい自分」です。
 これから、営業の現場で直面する苦労は私の想像を遥かに超えるものかもしれません。時にはくじけそうになることもあるかもしれませんが、その時はこの理想に立ち返り、挑戦させてもらえる環境に感謝して日々精進していきたいと思っています。

このページの先頭へ