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仕事とわたし

第2回産業論文コンクール 優秀賞
三笠産業(株) 湯川 典子さん

三笠産業(株)に入社して6ヶ月が経った。当社は主にプラスチックキャップ、ボトルの製造販売会社である。入社前からいつも何気なく使用していたものだが、業務を通じて専門的に捉えるようになってからは、毎日のように発見がある。包装というものは主役である商品のために存在する脇役ではあるが、内容物の保護、情報提供、利便性など担う役目は大きく、商品の流通において不可欠なものである。また製品単価は「銭」単位で非常に安く、小さなキャップではあるが、そこには開発・製造・販売という様々な職種の人達のアイデアと熱意・苦労が詰まっているのだと実感した。
CSR(企業の社会的責任)という言葉を最近よく耳にするようになった。これからは環境への配慮や使いやすい商品の提供、周辺地域への配慮など社会に貢献する企業でなくてはならないと考える。そして社会から必要とされる企業でなければ存在する意味がなく、いずれは社会から淘汰されてしまうだろう。そのため私たちには現状に満足するのではなく、常に社会環境の変化に対して、積極的に取り組んでいくことが求められる。高齢化、女性の社会進出の増加、食生活の変化、環境への意識の高まりなど社会環境は変化しており、これから先に起こり得る事態を予測して、時代の流れに対応した商品の開発を積極的に行わなければならない。そのなかでも、私は特に2つのことが重要だと考える。
まず当社は包装資材を製造しているが、包装は役割が済めばゴミになることを宿命とするので、環境負荷を低減する「環境配慮型」商品を提供していくことが必要である。そのためには、製品の軽量化による原料・輸送燃料の削減、リサイクル性の検討、バイオマス原料の使用が重要である。
そしてもうひとつはユニバーサルデザイン(UD)である。UDは高齢社会においては不可欠であると考える。UDはアメリカの故ロン・メイス氏により提唱された考え方であり、「特段の配慮をするというのではなくして、できる限り最大限に、すべての人に利用可能であるように製品、建物、空間をデザインすること」と定義される。そして当社では、具体的に行うべきこととして、「(1)使用における柔軟性に配慮すること、(2)単純で明解な使用法であること、(3)わかりやすい情報を提供すること、(4)身体的負担の軽減と安全性の確保をすること、(5)耐久性と経済性への配慮をすること、(6)環境にやさしい製品であること」の配慮原則を示している。配慮された商品は幅広い人の使用が可能となり、そのことによって消費者範囲の拡大、市場の拡大に繋がる。人間中心製品の開発・商品化は使用者にとってのメリットだけでなく、生産側にとっても大いにメリットがある。使用する人の立場にたった考え方で物づくりを進めることは、幅広いユーザーの支持を得ることに繋がり、そのことは自社のためにもなるのだと強く感じた。
入社してまだ間もないが、ユーザビリティテストに何度か携わったことがある。ユーザビリティテストとは使い勝手を評価することで、主に既存商品と開発商品を被験者に比較してもらう。当社の商品の多くは、料理をする方に使用される。そのため使う方の意見・評価は貴重である。また、社会の変化に伴って「料理は女性」という考え方も変わりつつあるので、主婦の方を中心としながらも、年代や性別に捉われない意見・評価が必要である。
これらのテストを行うことで、客観的な意見・評価により、私がこれまで意識していなかった多くの発見があった。その結果を見てみると、使いやすい基準は人それぞれであることに気付かされた。力の強い男の人や若い人には、カチッと開けたり閉めたり感じられるものが好まれる。一方、高齢者や女性の場合は、小さい力で開けることができるものを好む。このように使いやすい基準が様々だと「全ての人が使いやすい商品なんてあるのか」と思ったりもする。実際UD商品の開発には課題が多いと思う。しかしその課題に挑戦していくことにより、やりがいとやり遂げることで大きな達成感・喜びが生まれるのではないかと感じた。従って、より多くの人にとって使いやすい商品を作るための情報収集として、ユーザビリティテストは重要であると考える。
ユーザビリティテストに携わるようになってから、これからの社会で受け入れられる製品を作るには、人間中心設計の考え方が必要なのだと分かった。私自身、生活する上で使いやすいように工夫されたものに出会うと、非常に嬉しく感じる。UDについて考えるようになってからは、私個人としても人に優しい人でありたいという意識が強くなった。以前は電車で席を譲ろうと声をかけることもうまくできなかったが、最近では重そうな荷物を持った人に「手伝いましょうか」と自然に声をかけることができた。UDの普及は現在の高齢社会にとって重要なことで、進めていかなければいけない。しかしUDの推進には課題も多く、物づくりにおいて全てを網羅することは難しいので、やはり人間同士の助け合い精神が重要だと気付いた。またそのことで住みやすい空間や使いやすい商品など、人間中心設計への人々の関心が高まっていくような良循環が起これば良いと考える。
容器包装の面から使いやすい商品を社会に提供することで、急速に進む高齢社会を支える企業を目指したい。また社会の変化に対応した商品を提供できる、社会から必要とされる企業でありたい。そのために私は社会がどのように変化しているのか、またどのような商品が求められるのかという情報の収集・共有システムの充実を進めたいと思う。さらにCSRを考える上で、社会に貢献する企業となるため、地球環境や使用者へ配慮した商品の企画、また環境への取り組みを積極的に行っていきたいと考える。私には知識と経験がまだまだ乏しいため、キャップ・ボトルをはじめとする包装容器について、さらに様々なことについて関心を抱き、受け身ではなく自ら進んで学んでいく姿勢、また当社の基本理念でもある「創意工夫」の心を常に持ちながら、日々の業務に励みたいと思う。

<引用文献>
・人間生活工学 商品開発実践ガイド 74頁/社団法人 人間生活工学研究センター/日本出版サービス/2002年12月20日

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