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技術力で勝負すること

第5回産業論文コンクール 優良賞
(株)ヒラノテクシード 藤原 康晃さん

製造業においては、同業者間での激しい価格競争が行われている。特に昨今では、100年に一度とも評される世界的大不況により、それが熾烈を極めており、各社の財務状況をひっ迫している。厳しい価格競争により、各企業だけでなく、これを取り巻く企業までもが苦しむことになることは、想像に容易い。     

元より、各社は合理的な生産体制の構築を心がけ、無駄の徹底的な排除を行ってきている。つまり、最早削ることのできる無駄を見つけることは難しいという現実がある。こうなると、削られることが好ましくない部分が削られることになる。従業員等の処遇が削られることによってしか、社の維持を行うことができなくなるのである。どの企業も、自らの会社を存続させるために、これを同業各社で競い合うことになる。これにより悪循環が生まれる。

日本国の中核を成す産業である製造業を構成する人々の懐事情が苦しくなると、日本の景気は悪化するであろう。また価格競争に注力し、技術力による競争を軽視することにより、国全体の技術力が低下し、前途はただ闇となる。

これらのことから、製造業は技術力によって同業他社と競争し、他社を圧倒することに力を入れることが重要だと考える。これにより、価格競争によらない企業の維持を目指すことができるだけでなく、企業は高い技術力を構築することができる。考えられる身近な例では、トヨタのプリウスや、サンヨーのエネループを挙げることができる。これらの製品は、それぞれの市場を席巻しており、昨今の厳しい環境において、各社を支えている。

トヨタは、ハイブリッド自動車の生みの親として有名である。「ニューエンジンとエネルギー問題」という取り組みの中、1964年から遠い先を見据え、数十年にわたる研究開発を行い、ハイブリッド自動車の実用化に成功。今やトヨタのプリウスは、自動車業界の顔と見ても過言ではないほどの飛び抜けた売り上げを誇っている。もちろん商売の上手いことで有名なトヨタであるから、技術力だけが今のトヨタの躍進を作ったわけではない。しかし、自社の技術力を高めることを怠らなかったその姿勢が、この苦しい時期に、プリウスという形でトヨタを舞い上げたことは明らかであろう。

次に、その「技術力で勝負すること」が企業にどのような副次的影響をもたらすかを考えてみたいと思う。社全体からの視点では、社員の士気の向上という影響が考えられる。自らの所属する企業が、独自の技術を保持していれば、社員の自信につながるためである。そして何より重要なのが、マーケティングに与える影響である。一に、ブランド力。先に述べた、プリウスやエネループなどは、製品そのものがブランド力を保持していることはもちろん、その技術によって、クリーンなイメージを開発企業に刻んでいる。これは「コンプライアンス」が叫ばれる昨今のビジネス界において、特に企業対企業でのマーケティング力に好影響を与えるものと考える。そして第二に営業活動での優位性である。価格面での優位性を盾にし、商品の売り込みを行う場合、その商品が類似商品の中で、最低の価格でないと、なかなか購入してはもらえない。これに対して、技術力は製品に「特色」を与えることが可能である。技術力に裏付けられた、性能や品質、最近では安全性や環境などを武器に出来れば、客先にNOと言わさない力となる。つまり、価格での勝負では、ナンバーワンでなければ意味を成さないが、付加価値であれば、オンリーワンでの売り込みに希望を見出すことが出来るのである。

このように、「技術力で勝負すること」には多くの期待がつまっている。今こそ製造業各社は、長い目でみた利益を模索するために、製造業の魂である技術力に力を注ぐべきではないだろうか。

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