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「心地よさ」の追求

第6回産業論文コンクール 最優秀賞
(株)ヒガシモトキカイ 赤埴 忠至さん

『心地よさ』―私が15年前の入社テスト論文に書いたテーマである。産業の空洞化を止めるため今後の物作りに必要だと思われることは何ですか?と言う問いに対しての私なりの回答が『心地よさ』と言うキーワードであった。その中身を簡単に思い出すと買い手(エンドユーザー)が製品を手に取り、また使用して心地よいと感じることはもちろんであるが、作り手(メーカー)も作り込んでいく課程、環境、製品全てに心地よさを吹き込んでいかないとますます空洞化は進むであろうという内容だったと記憶している。
それから約15年。空洞化に歯止めはかけられたのか?答えはNOである。10年一昔とよく言われるが、世の中の移り変わりは非常に激しく、予想以上のスピードで変化している。今や大手メーカーは世界的視野でグローバルに活動し、国外での物作りが当たり前の世の中になっている。そのような移り変わりの中で、もはや空洞化という言葉自体がむなしくさえ聞こえてしまうのは私だけでは無いであろう。
日本自体少子高齢化が進みついに人口も減少に転じている昨今、内需だけで経済を大きく発展させることは不可能であり、今後経済成長が見込まれる国々に生産拠点をシフトさせていくことは当然のことと言える。またそうしなければ企業の発展や存続さえ危うい会社が多く存在するのも事実である。
しかし、大企業に比べ中小企業の数が圧倒的に多い産業構造の中で、海外に進出しグローバルに活躍できる会社はそう多くはないであろう。そういった中小企業の多くは今後も国内で企業を存続させていくことになるわけだが、先ほど述べた状況の中で存続させていくことは容易なことではない。その中で今後どういった物作りのスタイルを貫いていくか?弊社の物作りスタイルの場合を考えてみる。
世の中の目まぐるしい変化の中で、弊社はハイテクではない全くのローテクを貫きながらも業績は順調に推移させてもらっている。
その理由は何なのか?物作りに関して全くの素人であった私が、奈良工業会主催の経営者懇話会等を通じて奈良県内はもとより県外の会社や工場を見学させて頂く機会が増えるに従い、自社の強み(凄さ)が何であるかと言うことが自分なりに理解できるようになった。

弊社の強み【1】

『完全受注生産である』

お客様のニーズを正確に捉えて、顧客満足度100%の製品を提供する…いかにも聞こえのいいフレーズである。しかしどれだけの会社が顧客ニーズを完全に満たした製品を提供できているだろうか?
1個の製品で、大多数の満足を100%得ることは至難の業であろうと思われる。当然こういった場合の満足度は最大公約数の満足を満たす事になるのだが、当然そこには満たされない不満足が残されることとなる。
完全受注生産の利点は1対1の取引であり、個別のお客様1社のニーズを完全に捉えることが出来れば100%の顧客満足度も可能となる事にある。しかし対象は1社であっても、そこで評価頂く対象は1人ではない。最終決定を下すのは経営層であっても、実際に導入された機械を操作し扱うのは現場の担当者である。経営層には数字的なアプローチとその裏付けが必要であるし、現場担当者には使い勝手や洗浄性の良さといったアプローチが必要となる。当然その両方で100%の顧客満足を得る必要がある。
弊社は製造・販売だけではなく、機械の搬入・据え付け・調整試運転も自社で行うため機械出荷後になかなか開発までは届きにくい現場の生の声を聞くことが出来、それを次の開発に生かすことが出来る。
そうした会社単位以上によりきめ細やかな現場担当者レベルでの対応とサポートが、製品の機能的満足は当然であるが、さらにもう1段階上のレベルとなる製品に対する感動を感じて頂く事につながっている。そのことが社員40名の会社で営業は社長1人にもかかわらず業績を順調に推移させて頂いているポイントではないかと考える。

弊社の強み【2】

『完全内製化へのこだわり』

機械メーカーとは、開発・設計から製造、販売までを一貫して自社でやっている会社…入社するまでは当たり前だと思っていた。しかし、いろいろな会社を見学することで製造部門(工場)をほとんど持たないメーカーが実に多いことに驚いた。
外注加工先をうまく利用した方が、製品のコストを押さえることが出来る。そのことは私も否定しない。しかし、コストを押さえた物作りを優先するがあまり、せっかくの改善するチャンスを逃してはいないだろうか?物作りとは終わりのない改善活動と言っても良い。部品を内製する課程に置いて改善点は計り知れない。外注委託することは、改善のチャンスをわざわざお金を払って外注先に提供しているようなものである。
私は物作りのノウハウ蓄積に内製化は欠かすことが出来ないと考えている。
物作りのノウハウは図面にあると勘違いしている会社が実に多い。誤解を恐れないで言うと図面を書くこと自体は特別な知識が無くても非常に簡単に書ける。しかし本当のノウハウはその先にある。図面には記載されない長年培ってきた内製化による経験値の蓄積こそがノウハウであると思う。図面に表すことが出来ても実際に製作可能かどうか自社で判断できないようではノウハウの蓄積などあり得ない。
誤解があってはいけないが、『出来ないこと』が存在すること自体は全くかまわないと思う。問題は自社で何が出来るのか、何が出来ないのかを判断できないことだと思う。
完全内製化すれば、自社の限界を感じる場面は多い。その限界を他の力を借りることで克服することは簡単である。物作りに大切なことは、あえて簡単な方に流れず、難しい方を選択し挑戦する事が出来るかと言うことであり、挑戦し知恵を出し合い難題を克服していく課程で積み重ねられた経験値がノウハウとして蓄積されていく事である。中小企業の物作りはいかに付加価値を大きくするかにかかっている。内製化によって得られるノウハウを経験値として製品に吹き込んでいく。その繰り返し無くして付加価値を大きくすることは不可能であり、これからの中小企業の存続はあり得ないと思う。
以上強みとして認識している2点をまとめて考えると、特別斬新でもなく新しい画期的なものでもないことに気づいて頂けると思う。
誤解してほしくないのだが、決して真似をしてくださいと言う意味で弊社の強みを書いたわけでは無い。
物作りと言っても様々な形態がある。どのような形態であれ、現在企業として存続している会社は必ずお客様に認めて頂いている存在価値がある。その存在価値こそが付加価値であると思う。自社の強みを再認識し、出来ることと出来ないことをしっかり認識する。そして出来ること=強みをさらに強化するとともに、出来ないことを他に頼らず社内で出来るように変えていく。そういう努力を怠らなければ何も心配することなど無いと思う。
過去に未経験の事態に遭遇すると、今までには無い画期的なアイデアや方法を思いつかないと会社の存続が危ういと考えるのは非常にナンセンスなことである。そういった時こそ今まで培ってきた経験値=ノウハウが大切であり、その中にヒントは隠されていると思う。
業績とは良いときもあれば悪いときもあり、短期的に見れば変動して当然である。短期的な目線で良いとか悪いとか判断していては、長期的な展望に立って会社の発展を考えることは非常に困難である。
これからの時代は今以上にスピードが要求される時代になる。そんな変化の激しい時代に振り回されることなくどっしり構えて柔軟に対応していくためには、今まで培った経験とノウハウを生かして、様々な顧客のニーズにどれだけきめ細かく対応していけるかどうかにかかっている。そう考えると、私は大企業よりもむしろ中小企業に大いにチャンスがあると感じている。
最近仕事をしていて『楽しさ=難しさ』であると再認識されられることが多くなった。難しいことに挑戦することでしかノウハウの蓄積はあり得ない事を頭にたたき込んで、あえて簡単な方には流れず、難しい方を選択し挑戦していく勇気が物作りにおける喜びであり楽しさであることを肝に銘じたい。そうしていく課程でどんなに泥臭いやり方でも良いので『楽しさ=難しさ』を実感する瞬間が増えていけば会社の中に活気が出てくる。それが積み重なって会社の風土・文化になった時、本当に揺るぎのない小さいけれどピカッと光る会社になれると信じる。
文頭に掲げた『心地よさ』というキーワード。当時の私は弊社の顧客のほとんどが食品メーカーであることから

(1)機械を使う人(会社)の心地よさ

(2)その機械で生み出された食品を食べた人が感じる心地よさ

(3)その機械自体を生み出す環境(弊社社員)の心地よさ

この3点がバランス良く融合された製品を作り続けていくことが非常に大切だと思うと締めくくった。その思いは今でも変わらない。
心地よさという指標は数字に表すことが非常に困難である。製品を手に取った時の『触り心地』や実際に使ってみたときの『使い心地』といったものは全て人が感じる感性の部分である。
これからの物作りに求められるのは製品の機能向上はもちろんであるが、製品を手にしたお客様に感動して頂けるかどうかにある。感動とはまさに感性の部分であり、数字等で表されるものではなく、目に見えない付加価値の部分である。効率ばかりを考えていては決してなし得ないゴールである。
作り手、使い手と言った様々な立場で製品を見て、触れて、使って感じる様々な『心地よさ』こそが、今後の物作りの大きなキーワードである。
『心地よさ』の追求。改善活動と同じくこの終わりのないゴールに向かって泥臭く、簡単な方に流れず、真っ直ぐ突き進んでいきたいと思う。

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