ホーム産業論文コンクール過去の入賞論文第21回産業論文コンクール(令和7年度)製薬原料検査業務を通じた自己成長の軌跡

製薬原料検査業務を通じた自己成長の軌跡

第21回産業論文コンクール   努力賞
 佐藤薬品工業株式会社   松川日向子 氏 

『 これからの企業・仕事を考える[製薬原料検査業務を通じた自己成長の軌跡 』

 

製薬業界において、品質は命に直結する最も重要な要素である。医薬品が患者の手に渡るまでには、厳格な基準と多段階の検査試験をクリアする必要があり、その中でも原料の品質確認は製造工程の根幹を支える業務であると考える。私は現在、製薬会社に勤務し、製薬に使用される原料が規格に適合しているかを検査する業務を担当している。日々の業務の中で、単なる「検査」という枠を超えた責任と向き合いながら、自身の成長を実感する機会が増えてきた。本論文では、検査業務を通じて得た知識や経験、そしてそれによって形成された仕事観と自己の変化について振り返り、今後の展望を考察する。

私の業務は、製薬に使用される原料が規格に適合しているかを様々な項目で試験し、確認することにある。医薬品原料の規格試験は、製品の安全性と有効性を根幹から支える重要な工程である。原料の物性や化学的特性を分析し、規格値との一致を確認する作業は、精密さと根気を要する。これは単に各試験結果が規格に適合しているかという一点のみを見るのではなく、過去の試験結果やその傾向とも比較し、それまでと明らかに異なる傾向を示した場合は直ちに上司に報告・相談するなどの対応も必要となる。さらに、試験結果の正確性だけではなく、記録の信頼性、手順の遵守、トレーサビリティの確保なども不可欠であり、私はこれらを徹底することで、品質保証の一端を担っているという自覚を持つようになった。加えて、日々の業務の中で私が意識しているのは自身の手技における再現性である。検査結果が一度正しく出たとしても、以降それが常に再現されるとは限らない。環境条件や原料ロットの違い、僅かな手技の差によって結果に微妙な変化が生じることもあるため、私は日々の自身の試験操作や試験結果、傾向を自己分析することで、試験中のより重要で正確に行うべき操作を見極め、実行するようにしている。

検査試験業務を続ける中で「正確さ」や「責任感」などの仕事観も大きく変化してきたと感じる。以前はミスをしないことが第一の目的だったが、今では「患者の命を守るためにどこまで自分が責任を持てるか」「自分の仕事が社会にどう貢献しているか」という視点で業務に向き合っている。また、検査結果の記録や報告書の作成においては、製品の品質判断に大きな影響を与えるため、正確性と客観性が求められる。文書や記録の完全性を保つため「ALCOA+の原則」に基づき、試験結果の記録を行う際には細部にまで注意を払う習慣が身についた。「ALCOA+の原則」とは、データインテグリティ(データの完全性)を証明するために満たさなければならないとされる要件であり、「帰属性・判読性・同時性・原本性・正確性」の五種類の要件からなる原則に「完全性・一貫性・耐及性・可用性」の要素を加えたものである。検査結果の正確性だけでなく、記録の透明性や報告の迅速性なども最終的な製品の信頼性に繋がることを実感している。

製薬業界における品質管理は、社会的責任を伴う仕事であり、その重みを日々感じている。また、検査という業務は、製品の完成に直接関わるわけではないが、医薬品の品質に対する信頼性を支える重要な役割を担っている。自分の仕事が、最終的に誰かの健康や命に繋がっているという実感は、働く上で大きな責任を感じると同時に確かなモチベーションにもなっている。今後は、より高度な分析技術の習得や、品質保証の体系的な理解を深めることで、さらに社会に貢献できる人材になりたいと考えている。検査業務を通じて得た価値観は、私の働き方だけでなく生き方にも影響を与えている。「見えないところで支えることの尊さ」や「小さな違和感を見逃さない目」、「社会に対する責任感」等、これらは、今後どのような業務に携わることになっても通ずる価値観となるだろう。

製薬原料の検査業務を通じて、私は多くの知識と経験を得ることができた。初めは不安や戸惑いを感じることも多くあったが、失敗を乗り越え、日々の業務に取り組む中で、自分自身の成長を実感するようになった。検査という業務は、目立つことは少ないが、製品の安全性を守るという重要な使命を担っている。今後は、より広い視野を持ち、品質管理の専門性を高めることで、製薬業界における信頼の一端を担っていきたい。この産業論文を書くにあたって振り返った自己の成長は、今後のキャリア形成においても大きな糧となるだろう。そして何より、患者の安心と安全を支えるという誇りを胸に、これからも業務に真摯に向き合っていきたい。