違和感の正体~AI時代における自分の立ち位置とは~
第21回産業論文コンクール 努力賞
ニッタ株式会社 奈良工場 清原汐音 氏
『 違和感の正体~AI時代における自分の立ち位置とは~ 』
私は現在、ニッタ株式会社で営業事務として勤務している。中途採用で入社し、前職では約2年間オランダのホテルでウェイトレスとして勤務していた。新卒での就職先が海外だったこともあり、日本で働く変化には、当初大きな戸惑いを感じていた。それはウェイトレスと事務職という業種の違いに加え、仕事への姿勢や職場の文化、上下関係、報連相といった日本独特のビジネス慣習など、すべてが新鮮であり、同時に現職での自分の存在意義や貢献に対して、どこか確信が持てず、不安や違和感を抱えながら日々の業務にあたっていた。
入社から1年半が経過し、業務にも慣れてきた今、当時の不安や違和感は薄れてきている。慣れない環境や業務に対しての不安は理解できるが、あの違和感は何だったのだろう。この論文を執筆するにあたり、改めてその「違和感」が何であったのか、そしてそれが今の自分にどのように影響しているのかを見つめ直したいと思う。
前職のホテル業では、お客様との直接的なコミュニケーションを通じて即時にサービスを提供し、相手の表情や雰囲気からニーズを察知することが求められた。いわば、「人と接する」ことが業務の中心であり、対応の柔軟さや共感力が鍵となっていた。
一方、現在の業務内容は、受注情報のインプットや納期調整、電話対応など、営業担当がよりスムーズに業務を遂行できるようサポートする事務作業が中心である。正確性が求められ、ひとつのミスが大きな影響を及ぼす業務であるため、慎重さと集中力が不可欠だ。
どちらの仕事も「誰かをサポートする」点では共通しているが、そのアプローチはまったく異なる。目の前の人に直接応える業務から、間接的に相手を支える業務への転換。この業務スタイルの変化こそが、私が感じていた違和感の正体であったのだと今になって思う。
この違和感の正体を考えるうちに、私は近年進化し続ける「AIの影響」について意識するようになった。最近では、「AIに代替される職種」として事務職が取り上げられる記事を目にすることが増えた。実際に、厚生労働省一般職業紹介情報の資料によると、2025年度3月度の一般職の有効求人倍率が1.26倍だったのに対し、事務職のそれはわずか0.47倍であった。これは、求職者2人に対して1件未満の求人しかないという事実であり、事務職の需要が減少傾向にあることを如実に示している。
「このままでは、現在従事している業務が将来AIに奪われてしまうのではないか」という不安は、違和感を抱いた私にとってさらに大きな懸念となった。もちろん、今すぐに全ての事務職がなくなるわけではない。しかし、将来的には確実に「人が担う業務」と「AIが担う業務」が再定義されるだろう。
AIは、一定のルールやパターンに基づいた作業、たとえばデータ入力、定型文書の作成、在庫管理といった業務を非常に得意とする。人間よりも素早く、正確に、そして膨大なデータを瞬時に分析できるという点で、事務職との親和性は高い。一方で、人間には状況に応じた柔軟な対応や、人の感情を汲み取る力、つまりコミュニケーション力や共感力、対応力といった「対人関係の中で発揮される力」がある。
これからの時代、事務職に求められるのは、定型化された業務をこなすではなく、「AIの力を活用しながら、そこに人間ならではの付加価値を加えること」だと私は考える。
ではそれを踏まえ、付加価値となるのは何だろう。先ほどの対人関係で発揮される力から考えてみた。
まず1つ目は、コミュニケーション能力。これは人と人との関係性の中で築かれる信頼の上に成り立つ力であり、現在の部署間の連携をとるために重要となる。
2つ目に共感力についてだが、相手の立場や文化的背景を想像しながら適切な言葉を選び相手の気持ちになって考え、言動し人間関係での配慮が出来る。
3つ目は対応力。突発的な問題が起こった時に、まず状況を把握して、どのように処理していくかをとっさに判断する。冷静さを保ちつつ、周囲に協力を仰ぎながら対応出来る。
これらの力は、AIにはまだ難しい人間らしさを体現するものであり、職場における信頼や安心感の土台となる。
上記を自分の経験に落とし込んで、どう対応出来るか考えてみた。
たとえば、私が実際に経験した中で、海外取引先とのやり取りにおいてAI翻訳ツールが生成した文章は、ビジネスメールとしての形態は正しくとも、微妙にニュアンスが伝わりにくいことがあった。それまでのやり取りでの、コミュニケーション力・共感力を意識し、相手の性格を私自身の前職で培った感覚や異文化での経験から表現を修正することで、ネイティブの相手へより自然に伝えるよう対応することができた。こうした感覚や経験は、AIには難しい領域であり、人間の介在が付加価値として求められる部分である。
私はこれまで、「事務職に自分の接客経験や海外勤務経験は関係ないのでは」と思っていた。しかし、実際にはその経験が、語学面でのフォローや柔軟な対応力として業務に活かされている。どんな経験も自分の「付加価値」になる可能性があるのだ。
大切なのは、自分の強みを活かせる場面を見つけ、意識して業務と結びつけること。AIにできることを恐れるのではなく、AIと共に働き、その上で「自分にしかできないこと」を探していく姿勢が、これからの働き方には必要であると私は感じている。
今回の論文を通じて、私は自分が感じていた違和感の正体と、AI時代における自分の立ち位置について深く考えることができた。社会がどれほど変化しても、最後に必要とされるのは「人にしかできない仕事」であり、その価値は決してなくならない。
これからも、AIや新しい技術の進化を受け入れながら、そこに自分らしい付加価値を加えていくことで、変わりゆく社会の中で自分の居場所を見つけていきたい。違和感は決して悪いものではなく、自分を見つめ直すヒントになる。それを大切にしながら、私はこれからも事務職としての役割と価値を模索し続けたい。
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