ホーム産業論文コンクール過去の入賞論文第21回産業論文コンクール(令和7年度)理解の力

理解の力

第21回産業論文コンクール   最優秀賞
 大和ハウス工業株式会社   劉 軒 氏 
 『 理解の力 』

 

  • はじめに

 外国人として日本に暮らし、学び、そして働く中で、私が最も強く実感しているのは「理解の力」である。理解とは単に知識を吸収することではなく、相手の言葉を受け止め、気持ちを推し量り、文化の背景にまで思いを寄せる行為である。この六年間を振り返ると、理解の力こそが私自身を成長させ、また職場での信頼関係や社会との関わりを築くための基盤となってきた。現在、私は購買の仕事に携わっている。購買は、会社の利益やお客様の幸せに直結する重要な職務であり、取引先と協力会社の信頼関係があってこそ成り立つ。その意味で、「理解の力」は私の職務において不可欠であると強く感じている。

  • 言葉への理解

 来日した当初、私は五十音さえ覚えておらず、日常生活の些細なやりとりさえ難しかった。日本語を理解することは、まさに異文化社会に橋を架ける第一歩であった。日本語の言葉を理解するため努力した私は、どんどん「日本語が上手ですね」と言われることが多くなったものの、実際には分からないことだらけで、悔しさを感じる場面も少なくなかった。

 社会人となり、職場で日本語を用いるようになってからは、言葉の理解が単なる知識や語彙の積み重ねではないことを実感した。学生時代には、先生や教材を一方的に理解することが主な学び方でしたが、仕事の現場ではそれだけでは不十分であり、お互いに理解し合うことが求められる。特に、相手が自分を理解してくれることが重要だ。

私は、他部署の先輩に知りたい理由を説明せずに、要件だけ書いて聞くことがある。その時に、先輩から「なぜそれを知りたいの」を尋ねられた。最初はその質問に戸惑いを感じたが、次第にその重要性を理解するようになった。理由を説明することで、相手も自分の意図を理解しやすくなり、協力を得やすくなるのだ。また、理由を説明することで、自分自身もその要件が本当に必要かどうかを再確認する機会となる。さらに、職場では単に情報を伝えるだけでなく、相手の立場や状況を考慮したコミュニケーションが求められる。例えば、忙しい時期に長文のメールを送るよりも、簡潔に要点をまとめたメッセージを送る方が効果的であることが多い。相手の時間を尊重し、効率的に情報を伝えることが信頼関係の構築につながる。

このように、社会人としての日本語の使い方は、単なる言語の知識や語彙の豊富さだけではなく、相手とのコミュニケーションを円滑にするための工夫や配慮が重要であることを学んだ。これからも、相手に伝わる表現を意識しながら、より良いコミュニケーションを目指して努力していきたい。

  • 気持ちへの理解

  言葉だけでは、時に相手の本意を十分に掴み取ることはできない。そこで必要になるのが「気持ちへの理解」である。言葉への理解は仕事を効率化にする基礎のツールと言うと、気持ちへの理解は人間関係を円滑化の鍵だと思っている。

 私が現在やっている購買の仕事においても、

取引先、協力会社、他部署など多くの方々とのコミュニケーションが必要であり、その際には「気持ちへの理解」が非常に重要であると感じている。例えば、自分が何かを依頼する時、相手の立場や状況を考慮しながら依頼内容を伝えることが大切だ。単に自分の要求を押し付けるのではなく、相手がその依頼をどのように受け取るか、どのような影響を受けるかを理解し、配慮することで、より円滑なコミュニケーションが可能となる。例えば、取引先に対して納期の短縮をお願いする場合、ただ「納期を短縮してほしい」と伝えるのではなく、その理由や背景を説明し、相手の立場に立ったことが重要だ。相手が納得しやすい理由や、協力の見返りとしてのメリットを示すことで、より協力的な対応を引き出すことができる。

  • 文化への理解

 言葉や気持ちを理解する上で欠かせないのが、文化への理解である。外国人として日本に暮らし、働く中で、私は日本の文化と価値観を理解し、尊重することの重要性を強く感じている。中国では「入郷随俗」ということわざがあり、日本では「郷に入っては郷に従え」という表現がある。この言葉は、新しい環境や異なる文化の中で生活する際には、その場所の風習や習慣に従うべきだという意味を持っている。私はこの考え方を実践することで、日本での生活や仕事をより円滑に進めることができると感じている。

例えば、日本の職場では礼儀やマナーが非常に重視される。挨拶や名刺交換の仕方、メールや電話対応、接客など、細かなルールや習慣が存在している。これらを理解し、実践することで、相手に対する敬意を示し、信頼関係を築くことができる。

 新入社員の時、4ヶ月間の住宅営業研修を受けた。外国人として、私は一人で接客することが難しいと思ったが、熱意を持ってマナーを学び、実践のために準備した。その時、先輩と一緒に注文住宅を検討しいるお客様に対応することがあった。お客様がショールームで浴室を体感する時、靴を脱ぐ場面が何度もあり、私はその都度お客様が脱いだ靴の向きを調整した。成約した後、担当先輩からお客様が私を評価してくれたと聞き、とても嬉しかった。この経験を通じて、細かなマナーや配慮がいかに重要であるかを改めて実感した。

 今後は、日本の文化や商習慣をより深く学び、取引先から信頼される購買担当となることを目指したい。同時に、自分が外国人として持つ視点を活かし、将来的には海外取引において企業の架け橋となれる存在になりたい。

  • まとめ

  日本での六年間を通して、私が最も強く学んだのは「理解の力」である。言葉の理解はコミュニケーションの出発点であり、気持ちの理解は人間関係を深める鍵となる。そして文化の理解は、多様な価値観を受け入れ、協働するための基盤である。

 購買の仕事は、これらすべての「理解の力」が求められる職務である。相手の言葉を正しく理解する力、相手の気持ちを汲み取る力、文化的な背景を踏まえて交渉する力。そのすべてが信頼関係を築き、企業の成長につながる。

 これからの企業や仕事のあり方を考えるとき、国籍や立場を超えて多様な人々が共に働く時代がさらに進んでいくことは間違いない。その中で必要なのは、相手を「理解しようとする姿勢」と「理解される努力」である。私は新入社員として、この理解の力を一層磨き続け、購買のプロフェッショナルとして信頼される存在となり、将来的には企業や社会の発展に貢献できる人材を目指していきたい。